深夜。もう間もなく終電が走り去ろうとしている土曜の六本木は、誰もそんなことを気にしていないかの如く、実に多く人が街を往来している。見渡す限りのお店を覗けば、帰る気配すらない・・。「眠らない街」とはよく言ったものだ。
老舗ジャズライブハウス、Alfie を後にした私は、とある場所を目指しその街を歩いていた。
「この後、実はもう1本ライブがあるんだよね。紹介したいミュージシャンがいるから、良かったら寄ってみてよ」
これまで観た中でも最高クラスのステージ・パフォーマンスを楽しませてくれたばかりの、JINO こと日野賢二さんのその発言に耳を疑いながら、場所を確認してみると、出て来た名前は「エレクトリック神社」。
(エレクトリック神社?!)
初耳のその奇妙な名前の店は、Alfie からそう離れていないという。
STAGLEE を紹介して回っている私に「紹介したいミュージシャンがいる」と信頼するミュージシャンから言われれば、無視できるはずもなく、むしろ興味しか湧いてこない。かく言う JINO さんだって、そのミュージシャンと演奏するために1日2本、しかも深夜スタートのライブを行う、という選択をさせるほどのミュージシャンなのだ。
翌日の JINO さんのスケジュールは名古屋でのライブのはず・・。そう、完全に狂っている!(笑)
その眠らない街を歩いていると、これまた同じステージを楽しませてくれた TOKU さんが!
挨拶だけでも、とお声をかけさせて頂くと、これまた同じような言葉が・・。
「え? TOKUさんもそのライブにこれから行かれるんですか!」
そしてまたも謎のミュージシャンの噂を聞く・・。
ちなみにエレクトリック神社はライブハウスではなく、BAR だという。そんな場所で深夜からスタートするライブ。
路上からまっすぐ地下へ続く階段を降りて行くと、その BAR は現れた。そして異常なほどの人で溢れかえっていた。もう入る余地はないと思えるほど。
あまりの人の多さに一瞬「これは無理かな・・」と思ったその矢先、BAR カウンターの店員さんが手招きしている。そして近寄って来た別の店員さんに促されるままついて行くと、なんとポッカリとカウンター席が空いていたではないですか!しかも、ステージは目の前という特等席。
間もなくして、臨時にステージを設置したようなその場所にミュージシャンが集まってくる。
通常とは違う、特別に設営されたと思われるライティングと、背景となるペインティングされたブロック塀との組み合わせが妙にカッコよく、(行った事はないけれど)ここは New York のミュージック・クラブなんじゃないかと錯覚させる。そう、そんな日本でない感じが半端ないのだ。
果たして深夜のシークレット・ライブは幕を開けた。
ドラムとベース、そしてエレピであっという間にグルーヴが創られると、その空気を切り裂くようなゾクっとする音が重なった!
(あ、マイルスだ!)
痛烈なアッパーカットを喰らったかのような衝撃の音。
フレーズがどうのこうの、という次元ではない、もうたった1、2音だけで世界に引きずり込まれる、あのマイルス・デイヴィスのような感じ・・・それが、そのミュージシャンに初めて接した瞬間の正直な感触であった・・。
五十嵐 一生 Issei Igarashi
『孤高のトランペッター』だの『和製マイルス・デイヴィス』だの、後になってググってみると色々な評価・言われ方をされていることを知ることになるのだが、きっとそれは私が感じた衝撃と同じような体験をした人がなんとか言葉にして、感動を誰かに伝えたいと思うからこそ出てくる表現であり、私のような JAZZ をかじった程度の男には丁度良いキャッチコピーのように思える(ただ誤解のないように蛇足ながら付け加えておきたいのだが、人に伝えるときに便利だから、自分のボキャブラリーや音楽的知識が足りないからマイルス・デイヴィスと形容しているだけである)。
最初に感じた衝撃はそのままに、そのトランペットの音は脳を突き抜けていく感じでライブは続いていく・・。
もはやそこは、言葉を超越したミュージシャン同士の音による会話とリスペクトだけが満たしているような世界に思え、即興性がもたらすある種の緊張感は観るものを惹きつけて離さない。そして音に反応して時折見せるミュージシャンの笑顔がたまらない。
この「気」が込められたというか、「魂」が込められたというか、なんとも形容しがたい音を奏でる五十嵐一生さんとの衝撃的な出会いは、わずか数日後に別の意味の新たな衝撃を私にもたらすこととなるのだが、今回はそれには触れない。
ただひとつ伝えたいこと。
何をもって本物というかは人ぞれぞれの評価で良いとしても、それでも私はあえて言いたい。
「五十嵐 一生というミュージシャンは間違いなく本物だ!」と。
五十嵐一生出演のライブ情報
今回ご紹介した五十嵐一生さんのライブがゴールデン・ウィーク中に、六本木のキーストンクラブ東京で行われます。
あなたも是非「本物の音」を体感してみてください。トランペットに馴染みがなくても大丈夫です。本物の音はすべてを超越して、必ずやあなたに感動をもたらし「新しい扉」を開けます!ワクワクが広がるって楽しいですよ。
五十嵐一生トリオ@キーストンクラブ東京▶︎
出演:
五十嵐一生 (Tp)、
吉澤はじめ (Pf)、俵山昌之 (B)
▶︎
日時:2018年5月4日(金・祝/みどりの日)、18時会場/19時開演
▶︎
チケット:3,800円(予約)/4,300円(当日)*要・別途1ドリンクオーダー
▶︎ ご予約は
こちら!(残念ながら、本ライブは STAGLEE からはご予約いただけません)
五十嵐 一生の音楽への想い
先にご紹介したエピソードにあるように、JINO さんや TOKU さんのおかげで、五十嵐一生さんと出会い、そして STAGLEE へのご参加を快諾していただきました。今後、STAGLEE を通じて五十嵐一生さんの情報をお届けできることを大変嬉しく、光栄に思います。
ひたむきに、まさに人生をかけて音楽を追求している姿を目の前にすれば、そして一緒に音を出せば、ミュージシャンからのリスペクトが集まるのはもはや当然だと思えます。そして、STAGLEE を運営する私に「紹介したいミュージシャンがいる」と、深夜のライブに誘っていただいたお二方にはこの場を借りて深くお礼を申し上げます。
最後に Facebook を通じて、五十嵐一生さんが発信された「想い」をお伝えしたいと思います(ご本人の許可を得て転載しています)。
何が悲しいって、音楽なんかは一瞬で空気振動が消えてしまうってことだ。
絵画やオブジェのようにずーっと壁や地べたに残ればいいのだが・・・。
録音物は何度聴いても演奏は変わるわけがない。ただの記録だ。しかし、オレたちは同じ曲を何度演奏しても、毎度違う演奏をしている。まあ、それを聴いてもらうのが生きてゆくと言う事で、毎度同じなら意味がない。進んでないと言う事だ。
何ヶ月前からスケジューリングして、やる場所と一緒にやる人間を手配する。風呂の湯につかりながら、音楽の内容や人間の事それから新たななにかを頭の中から探し出す。
「自分は何が出来るのだろうか・・。うまくいくのだろうか・・。もっと上にあがっていく事は出来ないものだろうか・・」いつもそんな風な独り言とともに鍵盤を押さえ、レコードやCDを聴き、五線紙に何かを書きとめる。
その一日のために、色んな準備。着るものを選び、楽器や唇や指、腕の調子を整える。弱っているときには数日前から食い物でスタミナをつけ、また、精神的パワーも充填する。
演奏場所を頭で描き、共演者と素晴らしい一日を作る事が出来た妄想をなんども繰り返す。
当日もしくは前日に行くべき場所や車を駐車する場所もリサーチし、何度も確認する。車から降ろすものは、楽器に楽譜、機材、衣装・・・。その日に使うものを瞬時に頭で計算し選んでおろす。それらを自前のカートにのせ、目的地まで運搬する。たまには手伝ってくれる事もあるが、たいていは一人でやる。
演奏場所にもろもろの設置やそれらのチェックは入念に行い、演奏者には楽譜を配りその日の音楽を説明をする。ときには何度も同じ箇所を繰り返し、タイミングを合わせ・・そして、演奏前にはトイレに行ってうまくいく事を祈るわけだ。
何が悲しいか?
音楽を演奏する事が悲しいんではなくて、準備の苦労を悲しいといっているわけでもない。
前もって思い描いて準備をし、搬入・設置したのに、事が終わるとその夜またはその日のうちに撤収してしまう事だ。それが悲しいわけだ。
ステージにはもちろん音の残骸が割れたグラスのようにすら転がっているわけもなく、撤収後は「その日何がおこなわれたのか?」ってことすら忘れてしまうほどなにも残らない。
何か残る?___だとしたら人の記憶や心の中だろう。
それしかないのだ。
だから、音楽家たちは一日を大事にし、演奏家たちは一瞬一瞬を台無しにしてはいけなくて、観客は聴きのがしちゃあもったいない。
なぜなら、音は出した先から消えてゆく・・・。
時間を裂き予定をいれ、その日その場にいてくれて、オレたちの音楽を受け入れてくれる人たちにとても感謝。よくぞここまできてくれたなあと、本当に心の底から言いたい。
ありがとう。
(2018年4月14日、Facebook に投稿された五十嵐一生氏の記事を転載)
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